……まただ。こいつは本当に……俺の言ったことを簡単に忘れやがって…。

『ホント⁉良かったぁ。』

…多分本人はこれまた無自覚なんだろうけど…。
そうやって無防備に笑うなっつったのに。この馬鹿。自分の魅力にそろそろ気づけよ。
嬉しそうにしちゃって…。わかりやすいんだよな…。素直というか、無邪気というか…。自分が人を惹きつけやすいってことに気づいてねぇんだよな…。こっちはモヤモヤして仕方ねぇのに…。
そんなこと構わずに、並べた皿に丁寧に盛り付けていく七瀬。その横顔は幸せそうで…。見てるこっちまで自然と頬が緩んでしまう。
「…よしっ。できたっ‼」
一皿一皿綺麗に盛り付けられたオムライス。
さっき味見しただけだが、かなり美味かった。改めて七瀬のスペックの高さに驚いたということは言うまでもない。
「あ、運ぶの手伝ってもらって良いですか?」
七瀬が、調理を始める前に貸したエプロンをたたみながらそう聞いてきた。もちろんそのつもりだった俺は、人数分のスプーンとガラスコップを持ち三人前のオムライスを持った。
「ちょっ、え⁉そんな持ったら大変ですよ‼私もう一皿持てますよ?」
俺を見て驚く七瀬。そんなやわじゃねぇよ。内心笑ってしまった。
「…いや、別に問題ねぇよ。それより早く運ぼうぜ。あいつらもそろそろ腹減る時間だし。」
こいつは心配性すぎる。…というか、優しすぎる。
これも本人は無自覚。ここまで天然だと計算なんじゃねぇか、とか思うけど…。こいつの場合100%天然なんだわこれが。こうなってくると、一種の才能なのかもしれない。
いつもきっちりしてるけど、抜けてるところは壊滅的なまでに抜けている。そこが面白いし可愛いとも思う。
……だから人を惹きつけてしまう。本人が無自覚のまま、周りはこいつの魅力に気づいちまう。…本当にタチが悪いんだよな…。
とか思うけど、七瀬を見つめる俺の頬は自然と緩んでいた…。