そんなこんなで、私が生徒会に所属してから1ヶ月ちょっとの月日が過ぎた。

「だぁぁぁぁぁあ。まぁたテストかよぉ。」
金曜日の放課後。佐々舞尋が生徒会室の机に突っ伏す。
「やだぁぁぁぁぁあ。この前中間終わったばっかだろぉが‼なんなんだ、テストって…。」
まるで中学生だ。
私は黙って仕事をする。
「だよなぁ。でもさ、舞尋はテストテスト毎回騒ぐけど結局勉強しないよな。」
カオル先輩の言葉に私は大きく頷いた。
「僕もそれ思ったぁ。舞尋って何がしたいのか時々よくわかんないよねぇ。」
ユキ先輩の言葉にも私はさらに大きく頷いた。
「まぁ、僕的には舞尋が勉強してくれなくてラッキーなんだけどね。毎回追いつくだけで精一杯だから。」
ミサキ先輩の言葉にも…頷き…たかったんだけど…、頷けなかった。
………え?待って。そういえば、私この人たちの成績とか知らないかも…。運動神経良いのはわかるけど…。
ていうか、ミサキ先輩が追いかける側なの?佐々舞尋を?
………そこに驚き。
「そういえば、チサちゃんは前回どんな感じだったの?」
「えっ……。」
ユキ先輩のいきなりの質問に言葉がつまった。
…えっとぉ…。どんな感じって…どんな感じ?
「初めてだもんね、この学校のテスト受けたの。僕1番最初のテストとか覚えてないやぁ。」
ニコニコしながら私の答えを待つユキ先輩。
………。
「えっとぉ…まぁ、ぼちぼちですかね?」
なんか…あんまり言いたくない。
「そっかぁ。やっぱり難しかった?」
ユキ先輩なりに気遣ってくれている…。
こういう所に惹かれるんだろうな…女の子達は。
「んー…私的には普通くらいでした。平均点もそんなに高くなかったし……。」
ユキ先輩は私が話す時、常にニコニコしている。
この前の資料室でのユキ先輩はどこへ消えたのか…。そう思えるくらい、あれからも違和感なく会話をしている。生徒会のメンバーとも、あいかわらずの可愛らしい様子で仲良くしているし…。
気にするつもりもないけど、少しだけユキ先輩を知った気がした。
なんて思っているところに…。
「あっ、僕良いこと思いついたぁ‼」
眩しいくらいの笑顔…。
「…良いこと?」
ユキ先輩の言葉にカオル先輩が反応する。
「うんっ。」
嬉しそうな顔しちゃって…。
まるで小さい子を見ているようだ。
「お勉強会しよーよ‼」
…………。
「え?」
「ん?」
「は?」
タイミングが良いのか悪いのか…。カオル先輩、ミサキ先輩、佐々舞尋の順に各々が反応する。
…そりゃ、そーだ…。いきなりだもんね。まぁ、私は学年違うから関係ないし。黙って見てよーっと…。
「ちょっと待て、ユキ。それは誰に言ってるんだ?」
まだ理解できていない様子の佐々舞尋。
「もちろん、この生徒会メンバーでだよ?」
「………。」
何を言っているんだい?と言わんばかりの表情のユキ先輩。
佐々舞尋も黙り込んでしまった。
「勉強会?学校で勉強するとかじゃなくて?」
カオル先輩の様子だと反対ではなさそうだけど…。
「学校じゃないよ?誰かのお家でだよ?ちょうど明日から三連休だし、お泊まりでお勉強会しよーよ。」
「…俺は別に良いけど…舞尋とかミサキは?それに、誰の家でやるの?」
「あっ、考えてなかったぁ。」
……考えてなかったんかいっ。心の中で思わず突っ込んでしまう。
「誰かのお家空いてないー?」
……そこからなのね…。まぁ…良いけど…。
「僕の家は無理。全員分の和服とか用意できないし。それに兄さんが帰ってきてるから。」
「えっ、ミサキの兄ちゃん帰ってきてんの⁉」
佐々舞尋が食いついた。
「うん。舞尋のこと覚えてたよ。」
「マジかぁ。会いてぇー。」
「ははっ。わかった、伝えておくよ。」
…………。本当に仲いいな、この2人。
でもさ、でもさ。私だけ?着眼点違うの私だけ?
……和服って……。どゆこと?
「別に僕たち和服じゃなくていいんだけどぉ…。まぁ、ミサキのお家が無理なら仕方ないねぇ。ミサキん家、呉服屋さんだもんねぇ。」
…………。
「えぇぇぇー‼」
マジか。知らなかった。知らない知らない。
「あれ?七瀬に言ってなかったっけ、僕。僕の家呉服屋。」
思わず素でリアクションしてしまった。
「じゃぁ、どーしよっか。俺ん家はダメじゃないけど弟居るからなぁ。舞尋は?」
「…え、俺?えっと…。」
いきなりカオル先輩に振られて戸惑う佐々舞尋。
この様子は…。
「俺の家は…えっと…。」
「空いてるってー。」
「はっ⁉待てミサキ。そんなこと一言もっ…」
「わぁーい。やったぁ。じゃぁ、舞尋のお家ね。決まりぃー。」
「ちょっ、ユキ⁉」
「舞尋……。嘘は良くないよね。」
「お前にだけは言われたくねぇよ、ミサキ‼」
………。
この人、本当に嘘が下手だ。そして、ミサキ先輩の容赦の無さは相変わらず…。きっと…なんだかんだで、この人たちは仲が良いのだろう。
思わず笑みがこぼれた。すると…。
「わぁ…。」
ユキ先輩の声で四人の視線が私に集まった。
…………。…ん?なんで?
「本当にもったいないよねぇ、七瀬は。」
ミサキ先輩がこっちを見ながらつぶやく。
……もったいない?
「見たぁ。僕も見たぁ。ふふふ。可愛いねぇ。」
………?
よくわからない。
「ちょっ、馬鹿。お前ら騙されんな。七瀬だぞ?あの七瀬だぞ?」
………?なんだろう…けなされた気がする。
「ふふふ。舞尋ぉ。照れちゃってるぅ。」
「はっ⁉ちげぇよ。照れてねぇよ。なんでこいつに照れなきゃいけねぇんだよっ。」
「ふふふ。」
…………。うん。これ、けなされてるね私。
「ごめんね、七瀬。舞尋は素直じゃないから。」
ミサキ先輩が近づいてきて、意味深にそう言った。
……状況についていけてないのは私だけのようだ。
「だぁー‼もう、いいっ‼明日は俺ん家なんだろっ。」
からかわれていた佐々舞尋が限界に達したようだ。
「勉強道具と泊まれる準備しとけよなっ‼」
……なんだかんだで、佐々舞尋は優しい。そんでもって折れやすい。そんなところが仲間を惹きつけるんだろう…。