「……っ…はぁ…はぁ…っっ…」
息が上がる。
「…っっ……はぁ……はぁ…」
もちろん、俺だけじゃない。
最後のゴールをお互い譲らない。もう、20分は経っているはず。およそ2ゲーム半の試合時間だ。
「…さすがに疲れたね。」
「…そうですね…。結構キツいです。」
今は千咲ちゃんがボールをドリブルでキープしている。
顔は笑ってるけど、余裕はなさそうだ。もちろん俺も例外じゃない。そろそろかな…。
試合の流れが決まるのはそろそろだ。
お互いが慎重になる。…負けたくない。本気でそう思った。
その時…。
"……動いたっ"
一気に中に攻め込んできた。千咲ちゃんはきっとレイアップで行くつもりだ。
スピードは速い。お世辞抜きで女子のスピードではない。……けど。
「追いつけなくはないっ。」
歩幅とコース。追いつく自信はある。
千咲ちゃんの視界に俺が入った。一瞬だけ表情が変わる。
……頭の回転まで速いのか。
すぐに雰囲気が変わり、千咲ちゃんのスピードが微かに落ちた。
打つ。
確信した。ゴール手前でジャンプシュートに切り替える。
千咲ちゃんのルートが完全に予想できた。
だったら……。
回り込んでから、シュートカット。これでいけるはず。
動きの一つ先を読んだ。
そして、ルートが決まったと同時に実行。
予想通り、千咲ちゃんの落としたスピードに追いついた。
…あと一歩。
ー…キュッー
バスケ独特のシューズの音。
千咲ちゃんが止まった。それと同時にボールをゴールに向かって構える。
…きた。
軽く口角が上がった。予想が確信に変わったから。
間に合う。俺は跳ぶ態勢になった。
…その時っ。
「…なっ⁉」
千咲ちゃんの口角が上がった。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
千咲ちゃんは瞬間にシュートの態勢から小さくなった。
……まさかっ‼
俺の反応は少しばかり遅かった。跳ぶ態勢になりかけていたのがまずかったようだ。
俺の脇を小さくなってすり抜けて行く千咲ちゃん。一歩…そして、大きく二歩目を出す。…と同時に彼女の手からボールが離れる。
強引だが………上手い。
それしか言いようがない。彼女の手から離れたボールは綺麗にゴールへと吸い込まれて行くようだった…。
…だが。
やはり女の子にとってあのタイミングであの無理な歩幅は強引すぎた。
彼女のバランスが持たない。
俺の視界にはボールよりも、彼女がバランスを崩して倒れる先にあるポールが入った。
「あぶなっ……‼」
反射的に身体が動き、千咲ちゃんへと手を伸ばしていた。
……届けっ‼
