ゴールネットが揺れた。
これで同点。あと一回先に決めた方が勝つ。だけど……。
「千咲ちゃんさ、バスケやってたの?」
俺が決めたゴールボールを床に落とす前にキャッチしてハーフラインまで戻る彼女に尋ねた。
「あ、中学の時に少しだけ。でも、やってないに等しいというか…。生徒会でほとんど部活には出れてなかったから…。」
……正直驚いてる。
プレーの雰囲気からして経験者であることはすぐにわかったけど、この子のレベルには中学でちょっとやっただけじゃたどり着かない。
「クラブチームとかに入ってたの?」
普通に考えたらこの結論にたどりつくだろう。けど…。
「いいえ?中学だけです。バスケ自体は好きなんですけどそんな本格的にはやろうと思ってないんで…。」
「…そっか。」
俺は聞き終わって微笑んだ。…が、鳥肌が立った。
初めてだ。どんな強豪校と戦っても、こんな感覚味わったことなかった。
この子…予想以上に面白い子だ。
「今は、ウチの学校のエースと戦えてることに感動してますっ。」
……っ。
うわっ……まただよ……。この子…天然なのかな。
眩しいくらいの笑顔。本当に心からそう思ってくれてることが真っ直ぐに伝わってくる。
そして…その笑顔は誰もを惹きつけてしまう魅力を持つ。
「始めて大丈夫ですか?」
不思議そうに俺を見つめる千咲ちゃん。
ボールの構え方一つをとって見ても、やっぱりこの子には何かを感じる。
相手は女の子。それに、経験の歴が違う。手加減をするのは当たり前のことなんだが…。二回もゴールを決められて…。俺にも一応現役の意地ってもんがあるわけで…。正直、手加減しきれていないのが現状だった。
スポーツ気質のせいかもしれないけど、俺も結構負けず嫌い。だからかもしれない…。千咲ちゃんにゴールを決められそうになった時、一瞬本気になってしまっていた。というより、本気にさせられた。
新しい感覚なのだ。こんなゲームしたことない。多分、千咲ちゃん本人は無自覚だろう。自分の才能にも気づいていないだろうし…。
だからこそ楽しい。この子だから本気になりたい。そう思った。
「本気でお願いしますね。最後なんで。」
心を見透かされた感覚。思わず笑ってしまった。
「わかってるよ。千咲ちゃんに手加減はできないから。ていうか、手加減したら俺の立場なくなっちゃいそうだしね…。」
冗談ぽく聞こえただろうか…。俺は結構マジで言ってたつもりなんだけど…。
でもまぁ…。この子が楽しそうだから良いのかな。
……初めてだ…。こんな風に感じたのは…。