「…ぃ。…ぉい。……おい、舞尋?」
ミサキの声で我に返った。
どうやら考えこんでしまっていたらしい。
「大丈夫か?お前、七瀬の試合楽しみにしてただろ?」
「ちょ、バカ。ちげぇよ。あいつ、元バスケ部だっし、現役のカオルにどこまでやれるか観たかっただけだ‼」
ミサキの言い方だと誤解を招くからな…。思わず必死になってしまった。
「でもさ、これ…すごくない?」
赤くなる顔を元に戻そうとする俺の横で、ユキが珍しく真面目な表情をしていた。
「確かにな。カオルが手加減してるとはいえ、七瀬が押し気味だ。」
ユキの言葉にミサキが試合の流れを分析しながら返事をする。
「っていうか、チサちゃんが経験者とはいっても、実際は生徒会で部活どころじゃなかったんでしょ?あの子…すごすぎない?」
ユキの顔に笑顔が戻った。この状況を楽しんでいるみたいだ。
「…それは…まぁ…。ねぇ、舞尋?」
黙って聞いていた俺にミサキがからかうように話を振る。この野郎…。
「……あいつだからだろっ。」
半ばヤケクソの返事。
「どういうこと?」
ユキが空気を読まずに突っ込んでくる。
こいつは…確信犯か?…まぁ、いい。
「…あいつ、いわゆる才能屋だから。あらゆる物事の飲み込みが早くて、覚えも良い。そんでもって、センスの塊。」
さんざん見てきた。さんざん感じてきた。あいつの…七瀬の凄さを。
「ちなみに、本人無自覚だから。これ大事ね。」
ミサキが付け足す。
…そこだよな…。本人無自覚だから、もったいないというか…。でも、そこが七瀬らしいというか…。
「あ、カオルが打ったよ。」
ユキの声で俺もミサキもコートに目を向けた。
ゴールネットが揺れる。
カオルが二点目を決めた…。
現在の状況は2対2。お互い譲らない…。
「じゃあ、やるならここでしょ。どっちが勝つかかけますか。」
ミサキが意味深な笑みで俺らを誘う。
「ちなみに僕はカオルにかける。ユキは?」
迷いもなく、カオルにかけやがった。
「じゃぁ、僕も。」
…ユキも?…正直、意外だ。
「チサちゃんは確かにすごいけどカオルには勝てないんじゃないかな。」
2人して現実感ありすぎだろ…。
「舞尋は?」
…俺が?俺がどっちにかけるかだって?
もう決まっている。……俺は…。
「俺は…七瀬にかける。」
ユキは驚き、ミサキは予想通りといった表情をした。
「別に深い意味はねぇからなっ。ただ、皆同じ方にかけたら意味ねぇから…。深い意味はねぇからなっ。」
ミサキの表情が気に入らなかった…。
俺は別に…。ただ単純に七瀬の可能性を信じたいだけだから。ただ…それだけ…。……なんだろうか…。本当に?本当にそれだけ?
自分でもわからない。
もっと早く自覚しておくべきだったのだ…。
すでに…敵はすぐそこにいたのに…。
