……。
「うしゃ‼俺の勝ち。」
ゴールネットが揺れる。カオル先輩が三回目のゴールを決めた…。
「ちぇ。負けちゃった…。」
初めて見た…息を上げるユキ先輩のこと。
「やっぱり勝てないなぁ。僕、やっぱサッカーの方がいいや。」
そう言って戻ってきたユキ先輩はすごく良い顔をしていた。
普段の可愛らしいユキ先輩の印象とは違っていて…。なんというか…かっこいい。
そんなユキ先輩と目が合った。
…っ‼驚きで思わず目をそらしてしまう。
私はなんて失礼なんだ…。
「じゃぁ、次は七瀬だな。いってらっしゃい。」
「…ほぇ?」
赤くなった顔を隠すように下を向いていたところに、ミサキ先輩の声が聞こえたから変な返事になってしまった。
「ほぇ?じゃねぇよ。お前の番だろ。」
佐々舞尋が私の顔を覗き込もうとしているのがわかって、すぐに平然を装う。
……え、待って。
「ミサキ先輩達はやらないんですか?」
コートへ入ろうと出しかけた足を止めて聞いた。すると…。
「僕らは違うゲームするからいいの。」
ミサキ先輩が微笑みが、それ以上なにも聞いちゃいけないような雰囲気を出す。
「あ、はい。いってきます。」
………。
ここはおとなしくしてた方が無難な気がする。
私はすぐにカオル先輩が待つコート内に向かった。
まぁ…正直カオル先輩と戦えるなんて滅多にないことだしね。ここはやっぱり全力でぶつかっていかなきゃだよね。
こんなんでも私、実は元バスケ部だったりする。中学の時だけだし、生徒会で正直あんまり部活に出れてなかったけど、バスケ自体は嫌いじゃない。
「いっちょ頑張りますか。」
深呼吸してから、おろしていた髪の毛を軽く束ねる。歓迎会とは言われたけどそんなオシャレもして来なかったから動きやすい。
私としても、ウチの学校の噂のエースと
プレーできるなんて…。結構興奮気味だったりする。
「千咲ちゃーん、こっちこっち。」
コートのゴール前には私に手を振るカオル先輩の姿。
けど、視界に入るのだ。戻ってくるユキ先輩の姿も。なんとなく、すれ違うだけなのに緊張した。いつもの可愛らしい雰囲気じゃないから…。
あと3mくらいの距離。大丈夫。落ち着け。……あと2m……1m。あと……。

ーグイッー

……え。
「ユ、ユキ先輩⁉」
すれ違いざまのいきなりの出来事。ユキ先輩が私の腕を引っ張り、バランスを崩した私をユキ先輩が支える形となってしまっている。
…他の人も見てるんですけど⁉
「あ、あの、ユキせんぱ……」
「僕…なんかした?」
心臓の音がうるさい私の声をユキ先輩の甘い声が遮った。私の耳元で囁くかのように…。
「僕、チサちゃんに嫌われちゃうようなことした?目ぇそらされちゃうようなことしちゃった?」
……っ。
そんな…。……違うの。ユキ先輩のこと嫌いになるわけない。私…ひどいことしたんだ…。謝らなきゃ…。
「……違うんです。…ごめんなさい。」
私の言葉でユキ先輩が少し離れた。お互いの顔が見える。
「ユキ先輩が…その…いつもは可愛いのに…急に……か、かっこよく見えて…。その…動揺しちゃって…すいません。」
結局、暴露する形になってしまった…。恥ずかしくて死ねる。言ってから後悔したが…。
「なんだ…よかったぁ。」
ユキ先輩は安心してくれたようだ。私もホッとする。
「僕、チサちゃんに嫌われちゃったのかと思った…。」
笑いながら言うユキ先輩に……。
「そんなことあるわけないですっ‼」
勢いがよすぎるくらいに否定してしまった。
ユキ先輩は驚いたが、私は続けた。
「ユキ先輩のこと嫌うなんてあり得ません。可愛いし、運動できちゃうし、女の子には優しいって噂だし、それに私はかっこいいユキ先輩も知ってるし…。嫌いになんてなりません。」
私は事実を言ったつもりだ。すると…。
「………。カオル待ってるんじゃない?」
一瞬沈黙が流れた気がしたけど、ユキ先輩が下を向きながら言った言葉でカオル先輩を待たせていたことに気づいた。
「あっ、ホントだ。いってきますっ‼」
私はユキ先輩に頭を下げてからコートに向かった。
「……なにあれ。可愛すぎでしょ。」
うつむいていたユキ先輩が何か言っていた気がするけど、私はあまり気にしていなかった。