「私は…逃げたんです…。貴方からも…自分の気持ちからも…。」
もう、後には戻れなかった…。
「私は…何もできない…。1人じゃ何もできないんです…。」
涙はそう簡単に止まってくれなかった。
……
二年前のこと。
生徒会引継ぎ式。佐々舞尋が会長だった生徒会の代が終わり、新生徒会へと引継ぎが行われた。私の中学には新生徒会長は旧生徒会長が指名する伝統がある。
『では、新生徒会長を発表する。…』
毎年唐突の発表だが、それでその代が失敗したことはない。歴代の生徒会長は皆見る目があった。私は旧生徒会として、舞台の上に他の旧役員と共に並んで座っていた。
佐々舞尋は一体どんな人を選ぶのだろうか…。正直興味があった。
『新生徒会長には……』
誰もが緊張していただろう…、私を除いては…。
…
『2-A七瀬千咲を指名する。』
体育館中が拍手でいっぱいになった。…目を見開く私だけを除いて…。
『ちょっと、どういうことですか⁉私が新生徒会長なんて、聞いてませんっ‼』
式が終わり、生徒会室に戻ってすぐに私は反対した。
『だって、言ってないし。』
佐々舞尋は当たり前のような顔をして自分の荷物をまとめだす。
『待ってください。他の人を指名してください。私は無理です。』
他の旧役員達は猛抗議する私と佐々舞尋のやり取りを静かに見ていた。
『ダメだ。もう学校にも話は通してある。それに、俺が指名したんだ。俺の後は七瀬しか考えられないだろ。』
まっすぐな目で私を捕らえる佐々舞尋。優しくて、それでいて強い思いが伝わってくる目。私は何も言えず、ただ俯くことしかできなかった。
『任せたからな。』
私の頭の上にいつものように手をおき、軽く二回ポンポンとたたく。子供のように眩しく笑って…。それが最後だった。佐々舞尋はそれを最後に生徒会室から出ていった…。
私は必死になって会長職をこなした。他の役員は協力的で、すごく過ごしやすい環境でもあった。
でも…考えてしまうのだ…。私が今座っている会長席には佐々舞尋がだらしなく座り、その横ではミサキ先輩がテキパキと作業を進め、他の旧役員が毎日笑顔でいた日々を…。生徒会室に笑顔が溢れていたのはいつだって佐々舞尋のおかげだった。わざとふざけたり、急な思いつきで行動してみたり…。危なっかしくて…だから放っておけなくて…。誰もが彼に惹きつけられた。
それに比べて私は…。確かに静かな生徒会室ではない。それに、皆仲も良い。…けど…やっぱり違うのだ…。私じゃ…ダメなんだ…。
気づいた瞬間空っぽになった。もうやめよう。思い出すのはやめよう。考えるのはやめよう。佐々舞尋と関わった全ての記憶を胸の奥に閉じ込めた。今を過ごそうと…、私であり続けようと…努力した。思い出す度、辛くなるだけだったから…。私の中から、無理矢理佐々舞尋の存在を追い出した…。
