どれくらい経っただろう。
しばらく中庭に居た気がする。また過去のことを思い出してしまった…。もう、決めたのに…。私の意思は弱すぎる。
でも、もうこれ以上揺れちゃいけない。
「忘れなきゃ…。」
頬を軽く叩いてから勢い良く立ち上がる。そして向きを変えて教室に向かおうとした。…その時
「七瀬っ‼」
背中の方から聞こえた声。振り返りそうになって無理やり止めた。聞き覚えのある声だったから。そして、振り返ってしまえば思い出してしまうから。
私はその場に立ち止まった。
「…はぁ…っっ…はぁ…。」
息をあげながらやってきた相手は…。佐々舞尋だ…。見なくてもわかるのだ…。
「七瀬。お前に言いたいことがある。」
声だけでわかってしまう。佐々舞尋が真剣だってことが…。そのことにさえ、呆れた。私は…どこまで忘れられないのだろうか…。
「お前に、生徒会をやってほしい。」
まっすぐな言葉。けど、私は…。
「お前に…、七瀬に居てほしい。」
佐々舞尋がまっすぐになる度に、私の胸は締め付けられた。
…やめて。やめてよ。
「ダメか?」
優しい、それでいて寂しそうな声。胸が苦しい。…やだ。やめて…。
「……無理…です。」
制服の胸のあたりを強く掴みながら、絞り出すようにだした声。
佐々舞尋はどんな顔をしただろう。諦めてくれた?ねぇ、諦めて。お願いだから、これ以上…。
「俺のせい?」
…っ。
思わず体中に力が入った。
「やっぱり…そうなのか。」
すごく悲しそうな声。急に核心をつかれたような感覚。…違う。違うよ。貴方のせいじゃない。なのに…。
「勝手すぎますよ…。」
もう…止められなかった…。
「貴方は勝手すぎる。全部、全部貴方のせい。」
佐々舞尋に背中を向けたまま、私の声は
中庭に響く。
「私は…生徒会には入りません。もう、これは決めたことです。」
なんとか、必死に抑えた。全てを言ってしまいそうで、全ての弱さをぶつけてしまいそうで。必死に、必死に抑えた。
…なのに…。
「俺は許さない。」
強い意思が伝わってくるほどに佐々舞尋の声は力を持っていた。
思わず振り返ってしまった私の目には私をまっすぐに見つめる佐々舞尋が映った。
…どうして?どうしてそこまでするの?もう…やだ。嫌だよ。もう……やめて。
「俺は…七瀬が……」
「やめてくださいっ‼」
自分でも驚くくらいの大きな声が出た。
それと同時に私の中にこみ上げる何かがあった。それは止まってくれそうになくて…。
「どうせ…また居なくなっちゃうじゃん…。」
今度こそ止まらなかった。
「…七…瀬?」
佐々舞尋の声も、今の私には聞こえなかった。
「どうせ…貴方はまた…居なくなっちゃうでしょ?」
ずっと…ずっと胸の奥に閉じ込めてきた感情が溢れ出した。
「私は…無力なんです…。私は…空っぽなんです…。」
喋るたびに、私の中の何かがこみ上げてきて…。
「そんなことな…」
「貴方はわかってないっ‼」
佐々舞尋が言おうとしたことなんて、すぐにわかる。この人は…優しいから。
「全然…わかってなぃ…。」
視界が滲んだ。温かいものが私の視界を邪魔する。こんな顔は見せたくない。反射的に佐々舞尋から顔を背けた。
自分が…こんなに弱い人間だなんて…知りたくなかった…。