…
『これなら文句ないですよね?』
急に腕を引っ張られたかと思えばいきなり前髪を結ばれて…。
初対面なのに、なぜか嫌じゃなかった。むしろ感動したくらい。三年も前のことだ…。
『七瀬です。…七瀬千咲。』
気づけば名前を聞いていた。きっとこれっきりの関わりだと思ったが、なぜか聞きたくなった。なんとなく、関わりたいと思ったのかもしれない。
その望みが叶ったのかもしれない。
……。
『あっ…。七瀬…。』
生徒会選挙当日。体育館の舞台裏で、七瀬と再び会い、そして2人とも生徒会に所属することになったのだ…。
ちなみに、この時も俺は会長。七瀬は…1年にして副会長として選挙を勝ち抜いた。もう1人の補佐役、兼副会長はもちろんミサキ。
『あ、どうも。』
七瀬の二度目の挨拶は前より余計に無愛想だった印象が強い。
ますます興味を持った。
しばらく一緒に活動して気づいたこと、七瀬は不器用で、ガサツで、それでも任された仕事には責任をしっかり持てる。
良いところも、悪いところも沢山知った…。
そして、
『ちょっ、会長‼あなた、また先生に目ぇつけられたでしょ‼』
定期考査後の恒例化したやり取り。
『別にぃ〜。』
生徒会室にはいつも七瀬の声が響いていた。
『本当に良い加減にしてください‼貴方実力あるのに考査で手ぇ抜くとか、1番先生達に目ぇつけられる行為ですよ⁉』
正直どっちが年上かわからなくなっていた。
『別に良いだ……痛っ‼』
俺に皆まで言わせず、叩かれる。
『会長がそんなんでどうするんですか?毎回言ってますよね?貴方はただでさえ要領が良くて先生達からマークされてるのに…。』
七瀬は……心配性だ。…そして…温かく、優しい。態度はアレだが…いつも周りのことを心配している。
『わかってるよ…、ごめんごめん。』
心配する七瀬の頭を軽く撫でる。俺を見つめる七瀬の目は俺をまっすぐに見つめていた。
『次はちゃんと受けるから。な?』
七瀬の視線にできるだけ優しく応えた。
すると…。
………。
ーバコッー
『ぐはっ……………てめぇ…痛ぇだろーが。』
他の役員も驚く中…。
『次から頑張るんじゃなくて、毎回頑張るのが普通なんですっ‼…ったく…。』
鳩尾を押さえる俺を威圧するように見る七瀬…。普通ここは…可愛くうなづく所じゃねぇのかよ…。
『だからって鳩尾本気で殴る必要ねぇだろ。てめぇ、手加減くらいしろよ。』
『一応したつもりですけど?』
素知らぬ顔で相変わらず俺を見下す七瀬。
『おいおい、舞尋。七瀬キレさせんなよ。』
役員は全員七瀬の味方…。俺…会長なのに…。
生徒会室はいつもこんな雰囲気だった。
……
「あいつ…ホントに痛ぇんだよ…。」
静かな非常階段に俺の小さなつぶやきもそのまま響く。
思い出すのはいつも、七瀬といたことばかり。そのたび、自然と笑みが漏れた。
どこで俺は間違えたんだろうか…。恐らく、七瀬が生徒会を拒む理由は俺にある…。
でも、今再び思い出された記憶。そして、気づいた。俺には七瀬が必要だ。
七瀬と一緒に居たい。もう…迷わない。
