財布を取りだし、慌てて教室を飛び出した。

「きゃあっっっ!!」

ドンッ
チリンチリンチリン……


慌て過ぎたのか階段の最後の一段を踏み外し、派手にこけてしまった。
おまけに、財布の口が空いていたみたいで…

恥ずかしさと、痛さで動けなくなった。

莉奈は、私に気付かず、先に行ってしまった。
どんだけ鈍感なんだよ、莉奈は…

「立てるか?」

その場に座り込む私に、手を差し伸べてくれた。

「あ、一唏(いつき)……平気、しりもち付いただけだから」

手を差し伸べてくれたのは、高橋一唏だった。

一唏は、同じクラスでほとんど話した事がない男子。
周りにはいつも女子がいるけど…
モテないはずがないって感じの奴だ。



「お金は?」

あ、そうだった。
私の大事なお小遣い……

「かなり落としたのかよ」

急いで財布の中を見ると、大事な大事な500円玉がなくなっていた。


仕方なくうなずいた。

「…ったく、いくら?」

「分かんないよ…600円くらい?」

一唏は、財布から1000円を取り出した。

「やるから、立て」

「大丈夫!一唏のお金でしょ?」

「強制」

こんな、同じクラスの極一部な私に…
無愛想なわりに、いい人じゃん!






一唏………。
私はこの時、思いもしなかった。


既に、出会っていたなんて。