2013年 5月15日
斎藤純、高校2年生。昨日から学校に行っていない。
おれが何かしたってわけじゃないけど、学校に居場所がなくなった。これがいじめってやつか。まぁ、いいや。パソコン開けば友達なんていくらでもいる。

2013年 6月15日
学校に行かなくなって1ヶ月。
携帯に「学校に来たら?」ってメールがくる。お前だっていじめられてるおれのことシカトしてただろ。今さら友達みたいな態度とるなよ。うざい。携帯解約しよう。

2013年 7月20日
学校に行かなくなって2ヶ月になる。学校に行かないっていうより、家から出てない。外の世界より、家の中のほうがよっぽど楽しい。

2013 11月21日
もう半年も家から出てない。
なんだ、家から出なくたって全然生きていけるじゃん。
1ヶ月くらい前から親が学校に行けってうるさい。顔もみたくない。部屋の中から出たくない。


2014年 5月15日
学校に行かなくなって1年がたつ。
部屋から出ない生活も充分快適。ご飯は勝手にドアの前に置かれているのを食べている。パソコンがあれば外の世界のことは充分知れる。学校なんかより楽しい。


2015年 3月9日
ちゃんと学校に行っていれば今日が卒業式。あんなところで生活するくらいだったら卒業なんてしなくていい。

2017年10月20日
そういえば最近ネットがつながらないしテレビも映らない。心なしか外がうるさい。マジ最悪。まぁ漫画読んでればいいや。


2017年10月25日
ここ数日親の気配がない。おれのこと置いて旅行でも行ったのか。家にある大量のカップラーメンとケトルを部屋に持ってきた。これで食事は心配しなくていい。

2017年11月29日
親がいなくなって1ヶ月。おれのこと捨ててどっかに引越しでもしたんだろう。別におれとっては好都合。漫画も全部読んじゃったし、暇だ。食べ物はまだまだあるから大丈夫。


2017年12月15日
家の中にいてももうやることないなぁ。
誰かと話がしたい。ネットの掲示板とかで会話するのでもいい。でもネットがつながらないから、それも無理。とりあえず寝よう。


2017年12月24日
もう無理だ。誰でもいいから会いたい。学校でおれのこといじめてたやつでもいい。話がしたい。もう部屋の中にいたくない。いろんなことがしたい。外に出よう。




一人の男がペンを置き、日記帳を閉じると慣れない様子でコートを着る。髪も髭も伸び放題。とても20代の青年とは思えない。

「とりあえずどこに行こうかなぁ。駅前の本屋さんに漫画でも買いに行こうか。久々にいろんなやつと連絡とりたいから携帯でも買おうかな。」

その男は何年もの間、外に出ることを拒んでいたことが嘘のように外に出るのを楽しみにしている。
駆け足で階段を降り、玄関に向かう。靴を履くのが久々過ぎて、当たり前のことなのになんだか顔が笑ってしまう。

「部屋の中にいた数年を取り戻そう。とりあえずアルバイトでもするかな。勉強して大学に入って、友達をたくさんつくろう。彼女もつくろう。やりたいことがありすぎる。楽しいおれの人生が始まるんだ!」

男は勢いよく扉を開けた。



「嘘...だろ?」

男は力が抜けたようにその場に跪いた。


男の前には一面、荒廃した町が広がっていた。