ここに来ると、大抵希皿に出くわす。


礼太の顔を見るとめんどくさげな顔はするが、はっきり邪魔だとは言われない。


「ここ10日ぐらい会わなかったね」


「出張。思ったより手間取った」


家の仕事で泊まりがけ、学校は休んだらしい。


慈薇鬼家の全貌は依然ようとして知れない。


礼太の慈薇鬼家に対する知識はその存在を知った日からあまり増えていない。


分かっていることといえば、奥乃家と同じように妖退治を生業としており、しかも奥乃家より遥かに歴史が長い。


退魔には武具を使う(ただし一度しか見ていないので定かではない)。


加えて、慈薇鬼家には透過体質というSFチックな体質を持つ人間が稀に生まれるらしいこと。


今その体質も持っているのは希皿とあの雪政という青年だけだということ。


家がどこにあるのだとか、どのくらいの規模の一族であるのかとか、修行はいつから始めるのかとか、好奇心がないわけではなかったが、尋ねて希皿が快く答えてくれるとは思えない。


礼太が自分のことを話した時ですら、話しすぎだと眉を潜めた希皿のことだ。


自分の家のことを奥乃家の人間にペラペラ喋るとは思えない。


希皿はぶっきらぼうだし何を考えているのかいまいち分からないところがあるが、華澄が吠えていたほど嫌なやつではない。


だから、奥乃家と犬猿の仲であろうとなかろうと希皿の家のことなど大した問題ではないようにも思えた。








「……部活、やめよっかなぁ」


ふと呟いた礼太に、希皿は興味深げな一瞥をなげた。


「なに、あんた部活なんかしてたの」


「あのさ、僕の名前知らないの」


「部活、なにしてんの」


「……テニス部」


「へぇ、運動部。ついて行けなくなって逃げることにしたわけ」


言いづらいことをずばりと言い切る才能でもって、希皿はちくりと礼太を刺す。


うめくだけではっきりと答えない礼太に、希皿はさらに言った。


「それか、部の中で浮いちまってるとか」


まさにその通りである。


状況を悪化させているのは礼太自身だから、逃げを打っていると言われても反論できない。


「別にいいんじゃねぇか、居たくもない居場所に縋ってたって時間の無駄だ。あんたには、家業があるんだから。」


「君は部活してないの」


「してないよ、日常が不規則だから入ったってろくに顔出せないに決まってる」


希皿は、これも礼太の勝手な想像でしかないがちゃんと退魔師の仕事をしている。


きっちりと自分の日常をこなしているわけだ。


しかし、礼太の場合はどうなのだろう。


家業にとってただのお荷物でしかない自分が、そうやすやすと一般中学生としての営みを放棄してよいのだろうか。


「……あんたって、難しく考えるの好きだな。」


渋い顔をする礼太に、希皿は笑うだけだった。