6時間目が終わり、苦行から解放された生徒たちががやがやと騒ぎ出す。


誰よりも早く支度をすませたらしい和田がぺしゃんこのカバンとラケットを背負って礼太の席に飛んできた。


おそらくあのカバンの中には教科書のたぐいは一つも入っていない。


「奥乃、今日掃除ないよな」


「うん。ない」


職員会議がある日は掃除はなしだ。


和田はニッと笑った。


「早めに行って二人でラリーしようぜ。先輩たち来る前にさ」


「あー、ごめん」


視線をあらぬ方向へ彷徨わせる礼太に、和田は片眉をつり上げた。


「……また、休み」


「うん…ごめん」


和田は小さくため息をつくと、口をとがらせた。


「別に謝ることじゃねぇけど。その家の用事っていつまで続くんだよ」


礼太は罪悪感に痛む胸を無視して肩をすくめた。


「わかんない」


「……あっそ」


返ってきたのはそっけない返事だが、その実、和田を心配させていることは礼太とて知っている。


「ほんとごめん。…明日は行くよ」


「それが当たり前だ、アホ」


本格的に不機嫌な顔をして、挨拶もせずに和田は礼太に背を向けた。


騒がしい教室に一人残されて、礼太は思わず吐きそうになった溜息をのみこんだ。











最近、礼太は前にもまして部活に出ていない。


もちろん、相変わらず華澄たちの仕事に同行しているというのもある。


しかし、今はそれだけではなかった。


「……あ、今日はいるんだ」


桜の大木の下で、少年が無防備に寝っ転がっている。


礼太の声を聞きつけ、希皿は心底面倒くさそうな顔をした。


「またあんたかよ、暇なやつだな」


そう言われても仕方がないくらいには、礼太はしょっちゅうここに来ている。


希皿曰く、佐野山の(この山の名前らしい)結界は結局ほつれも歪みもしていなかった。


二度目にここを訪れた時、礼太は相当な覚悟をして登り始めたのだが、拍子抜けするくらいあっさりと幻桜のそばまで来れた。


まるで山が礼太の存在をそっくり受け入れてしまったみたいだと、希皿は顔をしかめている。


この場所の居心地のよさに負けて、礼太は三日に一回はここを訪れていた。


つまりは現在、部活を休む理由はないに等しい。


単なるサボリだ。