引っ張っていたはずがいつの間にやら立場が逆転し、気がついたら二人に両腕をぐいぐい引っ張られていた。


気がつけば見慣れない住宅地に入っている。


せいぜい築5〜15といった家の並ぶ新興住宅地。


どこかから小学生くらいの笑い声が聴こえる。


空はだいぶ暗くなってきたが、まだ遊んでいるらしい。


黄昏の中にあっても、退魔師などとはおよそ無縁に見える、穏やかなところだ。


「どんな依頼なの」


若干息切れしながら尋ねると、何が楽しいのか、聖が妙に弾んだ声で答えた。


「んっとねぇ、依頼主さんの家では、最近誰もいないはずの部屋で子どもの笑い声が聴こえたり、ぱたぱたって足音がしたりするんだって。なんか怖いから、どうにかして欲しいんだって」


子どもの笑い声?


想像しただけでぞっとする。


兄が怖気づく気配を感じたのか、華澄がうろんな目を向けてきた。


「ちょっと、これくらいでひびんないでよ。兄貴だって一年間は修行したんでしょ」


「三歳の時のことなんて覚えてないよ」


礼太は自分が修行をしていた一年間のことを、全くと言っていいほど覚えていない。


覚えていることと言えば、華女に挨拶に行ったことや、父に失望の眼差しを向けられたことぐらいだ。


(それも父に関しては、三歳児ないし四歳児がそこまで人の感情を解するとは考え難いので、のちの自分が捏造したものである可能性大だ。)


肝心の妖退治に関する記憶は一切ない。


「着いた、このおうちだよ」


学校からわずか五分足らずでたどり着いたのは、何処にでもありそうな小綺麗な洋風の家だった。

「いつもこんな近場なの」


「ううん、新幹線乗ってく時もあるよ」


華澄がのんびりとした口調で答える。


まぁ、そうだろう。


土日はほとんど、二人とも家にいない。


聖が指を伸ばして、ピンポーン、と礼太が思っていたのよりだいぶ可愛らしい音の呼び鈴を鳴らす。


はぁい


それに元気よく答えた声も、ずいぶん可愛らしく、幼かった。


ドアが遠慮がちに開き、中から幼稚園ぐらいの女の子が顔をだす。


三人の姿をとらえると、満面の笑みをこぼした。


「あーっ、ユーレーたいじのお姉ちゃんとお兄ちゃん」


「こんばんわ、千景ちゃん」


華澄がにっこり微笑んだ。