礼太の通う中学校には、休日も学校に来る際は必ず制服着用のこと、という少しばかり面倒くさいきまりがある。


だから連日学校で練習がある運動部の生徒は毎日、学ラン、もしくはセーラー服に袖をとおすことになり、洗う間がないと保護者にはかなり不評だ。


礼太は、何で昨日のうちに洗濯しとかなかったんだろうかと自分を恨みながらすっかり馴染んだ学ランに袖をとおした。


今からランニングしたり球拾いをしたりすることを考えると少々面倒だが、行くところがあるのは有難い。


昨日の晩から屋敷の中に流れている独特の辛気臭さにさらされずにすむというものだ。


正門から出れば、帰宅する親戚と鉢合わせそうなので、エナメルバッグを斜めにかけた礼太は自分の部屋から出ると、裏口の方へ回った。








「……おじいちゃん?」


裏戸から出た所にたたずんでいた意外な人物の姿に、礼太は目を丸くした。


祖父は礼太に気づくと、それまで厳しく引き締まっていた表情を優しげに緩めた。


「日曜も学校か?」


「ううん、部活だよ」


やや緊張した面持ちで返すと、そうか、と優しく頭を撫でられた。


「あ、あの、おじいちゃん。昨日は、ありがとう」


この言葉が相応しいのかは微妙なところだが、他に思いつく台詞もない。


昨日は、祖父がいてくれたお陰で、動揺を最小限に押し止められた。


祖父が笑いかけてくれなければ、容赦ない父の言葉に、泣いていたとも限らない。


「私が礼太を信じないわけはない。お前が廉姫が見えているというなら、そこに疑う余地などない」


信じてくれる人がいる。


その実感は、礼太に安心と不安両方をもたらした。


寄り添ってくれる人がいることの安心と、期待に応えられないのではという不安。


礼太の複雑な心境を見てとったのか、祖父は笑みを崩さぬまま言った。


「あまり気負うんじゃない。最後に決めるのは、礼太、お前自身でいい」


「でも………」


でも、の後が続かない。


自分が何を言いたいのかも分からなかった。


祖父は俯く礼太の頭にもう一度しわくちゃの手をのせて、今度は少し乱暴に撫でた。


「一時間もしたら私とおばあちゃんは帰ろうと思う。他の奴らは昨日のうちに帰った。あまり留守にはしておれんのでな」


「うん、……気をつけて帰ってね」


「ああ、また会おう。今度はお前たちがうちに来なさい。」


「うん」


少し名残惜しげな祖父に背を向け、礼太は小走りに家を出た。