左右に分かれた地下牢の狭間の通路を華女の後について必死で歩いた。


足元はふらふらとかなりおぼつかなくて、気を抜いたら倒れそうだ。


地下牢は広かった。


華女の手元の灯ではとても全てを照らしだせないほどに。


礼太が入れられていた牢屋と同じものが格子に区切られていくつもいくつも連なっている。


天井は見えない。


ここが地下何メートルほどの位置にあるのかは分からないが、驚くほど深く掘り下げられている。


空気は夏だと言うのに乾燥していた。


そして、礼太は確かに暗闇の中で時々何かが動く気配を感じた。


……ここに閉じ込められているナニカだろうか。


普段なら恐ろしくて敵わないような場所だが、その時の礼太に怖がる余力はなかった。


あの牢屋の中にいた永遠にも近い時間の中で今日のぶんの恐怖をあらかた使い果たしてしまったような気がした。


「血を見る羽目にならなくてよかったわ」


華女がぽつりと呟いた。


音の波が際限のない空間に吸い取られてゆく。


「………血」


礼太は感情のない声で華女の言葉を繰り返した。