「………っ」


意識の浮き沈みを何度か繰り返したあと、礼太はうっすらと目を開けた。


しかし、あたりは一面真っ暗で、瞼を閉じていても大差ない。


下には毛布の感触があった。


どうやら自分はここに寝かされていたらしい。


一体、何がどうなってるんだ。


百物語をしていたことは覚えている。


ここは武道場なのだろうか。


でも、誰の寝息も聴こえないし、第一これほど暗い筈もない。


月明かりが窓から入ってきていたのだから。


礼太は手探りで這うように前に進み出た。


毛布からはみ出した手の平が冷たい石の感触を捉える。


(……この地面、コンクリートなのかな)


目の自由が効かないというのは不便だ。


そろそろと、もう少しだけ前に進み出る。


「……ッ痛たぁ」


ゴツンっ、と頭を何かにぶつけて、礼太は顔を歪めた。


「何これ……金属……?」


前にある物を掴むと、何か金属で出来ているものだと分かった。


それは棒状であり、しかも一本だけではなく、小さな子どもの腕が通るか通らないかぐらいの間隔で何本も礼太の前に立ちはだかっている。


「まさか、格子」


動物に犯罪者。


何かを閉じ込めるためのもの。


「ここは………」


牢屋なのか。


立ち上がって始めて、自分が裸足であることに気づいた。


同じ過ちを繰り返さない為に、グッと腕を前に突き出し、慎重な足運びでその空間を動き回る。


しばらくして、礼太はがくりと膝をついた。


そこは広さ二畳くらいの、紛れもない牢屋だった。


(……ほんと、どうなってんだ)


一体、自分はどうしてしまったのか。


他の皆は?


和田はどうしたのだろう。


「わだぁ、わだ たちばなぁー」


控えめな声で呼んだあと、意を決して腹から声を出す。


「和田!……篠宮っ、……乙間先輩……っ」


他にも数人の名を呼んでみたが、ただ虚しく、礼太の声が響くだけだった。


(……誰か……)


心の中で助けを求めた時だった。


「……ひっ……」


突然、何かの映像が頭の中でフラッシュして、礼太は身体を竦めた。


「なんだ……今の」


怯える和田、逃げる彼ら、吹き飛ぶ乙間先輩、悲しげな華女……


強烈な場面が脳内を走馬灯のように駆け巡り、礼太の心のうちを蹂躙した。


「……ちがう、なんだよ、違うよ、僕はあんな……っ」


美味ソウナ子供


頭の中で和田の首に手をかけた礼太がそう囁いた。


コノ子ノ血ハ美味ソウダ……


その礼太は目の前の少年を友人の和田 橘としてではなく、獲物として捉えていた。


己の喉を潤し、腹を満たしてくれるであろう獲物。


「やめて……くれ……」


礼太は呻いた。


頭を抱えて、訳の分からない映像が途切れるのを待つ。


しかし、まるで壊れた機械のように、礼太の頭は恐ろしい場面を繰り返した。


何度目かも分からない気の狂いそうなリピートのあと、暗闇にコツン、コツン、と足音が響いた。


礼太は伏せていた頭をゆっくりとあげた。


コツン、と最後の音が礼太の前で止まる。


手元の灯りに照らされた華女の青白い顔が、微笑みながら礼太を見下ろしていた。