礼太は闇の中にいた。

深い深い闇の中、いや、礼太自身が闇の一部だった。

充満する黒に身体中を侵食されている。




泣き声が聴こえる。





いや、鳴き声と言った方があっているのだろうか。

親の姿が見えなくて必死に探す雛鳥の鳴き声みたいだ。

でもそれにしては、声にはいわゆる『人間臭さ』とでも言うべきものが備わっていた。

それでいて、獣じみてもいる。





………女の泣き声






不可思議な鳴き声に混じって、確かに女の声が聞こえた。

ひたすら無垢で、何故かゾッとする響き。

耳を塞ぎたくなるような煩わしさを感じさせる、けれど、どこか哀れを誘う泣き声。

礼太は女の声にふと、懐かしさを憶えた。

ずっとずっと昔に聴いた声だ。

優しい声で怖い声。

時に唄をうたい、時に叱るその声。




そうだ。

この声は………の声だ。





懐かしくて、今でもなお慕わしい、そのヒト。






闇が礼太の呼吸を奪う。

黒を伝って、女の声が礼太の中に流れ込んできた。


息苦しくて

哀しくて

寂しくて

虚しくて


………………愛おしい





身体に纏わりついていた黒が、糸がほどけるように離れてゆく。


闇が、遠ざかる。