「合宿、奥乃も参加するんだよな」


汗だくの顔で覗き込んでくる和田に、礼太はにこりと微笑みうなづいた。


和田が顔を嬉しそうに綻ばせる。


実年齢より大人びた頬がたちまち年相応の色を纏った。


夏休みもいよいよ終盤にかかる8月半ば。


礼太が辻家から戻って、約4週間。


気温は気合いの入った連日30度超え。


蒸した暑さの中で、テニス部員たちは練習に励んでいる。


水分補給のために影に避難した礼太と和田は備え付けの丸太椅子に座って、ポツポツと会話をかわしていた。


「なぁに、二人してニコニコしてんだ」


いきなり後ろから頭をぐいっと押さえつけられて、視界が地面でいっぱいになる。


隣の和田がグぇっと蛙が潰れたような声をあげた。


「先輩、頭はやめてください。ますます馬鹿になったらどうするんですか、奥乃が」

「いや……そこは自分の頭を心配しろよ」

「それは言えた」


礼太の言葉に同意の声を上げたのは乙間 駿之助先輩。


振り返れば、カラッと明るい笑顔が礼太たちを見下ろしている。


ツンツンの染めた茶髪がやんちゃなのに、どこか雰囲気が王子さまっぽい。


いいとこのお坊ちゃんらしいが、詳しいことはわからない。


とにかく慕われている先輩だ。


ただし、髪の毛のせいもあるのか、教師に小言をくらう数も半端ではないらしい。


「仲良いのはいいけど、一年の球拾い手伝ってやれ、人数少ねぇんだから」


乙間の言葉に二人して素直にうなづき、礼太と和田は痛い日差しの中に戻って行った。


ちらりと盗み見た和田の顔は、日差しがまぶしいのかくしゃりと眇められている。


(………ほんとに許してくれた、のか?)


いまいち、自信が持てない。





夏休みのはじめ、遠出の仕事から帰り、憂鬱な気分で部活に赴いた礼太を迎えたのは、拍子抜けするような和田の笑顔だった。


「ごめんな」


和田はそう言って、すまなそうに微笑んだ。


「奥乃の決めたことに、俺がいろいろ言うのは間違ってた。ほんと、ごめん」


礼太は戸惑いつつも、こっちこそごめん、と頭を下げた。


釈然としない違和感を感じながら。


あれほど、半泣きで怒って縋ってきたのに、こんな一瞬でひと一人の気持ちが変わるだろうか。


ほっとしたのも確かだった。


和田とわだかまりを抱えたまま部活を辞めるのは嫌だ。


釈然としないけれども。


「あっちーなー、アイス食いてぇ」


日に焼けた額をごしごし擦りながら、和田がこぼした。


「うん、食べたい」


コート中に散らばったボールを拾い集めながら、ま、いっか、とも思う。


こうやって、普通に会話できてるんだから。