帰りは駅まで雪政の車で送ってもらうことになった。


もちろん、しぶしぶだ。


雪政も親切そうな顔をして、華澄をからかっているのが見え見えだ。


大人気ない。


「ありがとう」


玄関の前、奈帆子の言葉に、華澄を首を振る。


「いいえ、仕事ですもん」


そう、これは仕事。


解決した以上、報酬はきっちりいただく。


それでも、ありがと、と奈帆子は礼太を見て言った。


妙にくすぐったくて、顔を赤くして下を向いてしまう。


奈帆子は、らしからぬクスクス笑いでもって答えた。


その時、屋敷の中から女性の叫び声が聞こえた。


誰かを呼ぶ、悲痛な声だ。


はやと、はやと、と息子を呼ぶ、奥さんの声。


あのよくないものが消えた時、正確には聖が子どもたちを解き放ったときから、屋敷ではおかしな物音や子供の笑い声がしなくなっていた。


奥さんは、退魔師が息子を祓ったのだと思っているのだろう。


ほんとうは隼人はまだいるのだが、それは知らせるべきではない。


ここからは家族の仕事、もしくは医者やカウンセラーの仕事だ。


奈帆子は顔を曇らせて屋敷の方をみやったが、すぐに礼太たちの方を向いて促した。


「さぁ、早く、行って。早くしないとママに掴みかかられちゃうわよ」


無言でうなづき深く頭を下げて、礼太たちは車に乗り込んだ。


エンジン音が鳴り、車が走り出す。


屋敷はあっという間に遠ざかり、木々に覆い隠されて見えなくなった。