さっき、助けてくれたはずなのに、私をゴミのように追いやって、彼はいつも唐突に去っていく。
私はよろめきながらも、彼が去っていくのをスローモーションのように見つめ続けていた。
窓から見える空はよく晴れて雲ひとつないのに、彼の顔は長い前髪で影っていた……。
雨の日に私に見せた、あのもろく壊れそうなアイツは一体なんだったの?
誰のことを想って、そんな顔をしているの……?
またも私は倒れそうになっているのに、そんなことは気にもとめず、彼のことばかり考えてしまう。
でも、一瞬だけ肩をしっかりとなにかに受けとめられ、私は揺らぐことなく廊下に立っていた。
その不思議さに首を傾げながら、気配を感じて左を見ると、文庫本を片手にした男子が素知らぬ顔で通り過ぎていった。
大きくて、アイツよりも背の高い後ろ姿は、なにも語らずに遠ざかっていく。
足音は静かで、本のページをめくる音の方がよく響いていた。
彼が、私を支えてくれたの……?


