『海夏っ……!』
俺は自分の方へ、海夏の手をグイッと引っ張ろうとしたけど、耳をつんざくようなクラクションが鳴り響いた。
狂ったような音の海。
眼前に迫る銀色の怪物のようなバンパー。
そして軽すぎる音がたったとき、俺の手はほどけていた。
海夏の手はなくて、体はすうっと倒れていった。
絶え間なく鳴り続けるクラクションだけが聞こえた。
気づいた時には、かたくて熱いアスファルトの上。
道路に投げ出されていた俺は、痛みが走る体を両腕をついてなんとか起こした。
頭の中には、海夏のことしかなかった。
俺は海夏の手を掴んだ手の平をギュッと握って、即座にあたりを見渡した。
でも、地べたに座り込んでいる俺の前にあったのは、海夏がぶらさげていったレジ袋。
そして、袋の口から吐き出されていたのは、ジャリジャリ君のイタズラっ子のような顔だった。


