すると海夏は、俺の手を振りほどくとあどけなさそうににっこりと笑って、また悪魔的要求を突きつけた。
『わーいわーい。じゃあ他の味も一本ずつ買っておいてね~、優しいヒロ兄』
言いたいことだけ言うと、海夏はスタスタと雑誌売り場へ向かっていった。
ジャリジャリ君のパッケージに印刷された、いがぐり頭の少年が海夏のようにイジワルに笑っている気がした。
兄貴なのに、振り回されっぱなしの自分が情けない。
ていうか、数日前も海夏には同じ手口を使われた。
俺が出掛ける時になったら、海夏はゴロゴロしたまま俺に少女漫画誌のちゃ~おを買ってきてなんて言ったんだ。
それも、もうすぐ誕生日なんだからヒロ兄の奢りねって同じことを言って。
誕生日が何回あるんだって突っ込みたくなるもんだ。
この日から1週間後の8月28日は海夏の誕生日だったけれど、それまでに何回こんなことされるんだろうって思ったら、出るのはもうため息ばかりだった。
『ありがとうございました』
ふと我にかえれば、店員が商品の入ったレジ袋を持って、にっこりと差し出していた。
俺は曖昧に頭を下げてレジ袋を右手で受け取ったけれど、店員の笑顔を見るのと同時に、左手に持った財布がやけに軽くなったのを実感して、とても笑えたものじゃなかった。


