本当は……、本当に消えちゃえばいいのは自分だってわかってるけど、そんなこと悔しくて言えない。

私を笑うヤツらも、私の心を振りまわすコイツも……素直になんて許せない……。

私は苦し過ぎて溢れだしそうな涙を必死にこらえた。

「そうだよな。俺みたいのは、消えちまった方がいいよな。だけど、どうしようもねぇんだよ。どうにもできねぇんだよ……」

なのに突然、彼は消え入りそうな声で呟いた。

急に弱々しい声を出すから、私はわっと泣きたくなる。

柄にもないことを言わないでよ……。

けれど、彼はまだこう続けた。

「人は、誰かを傷つけながら 生きてんだよ……」

風がざわっと草木を圧倒して駆け抜けていく。彼の言葉とともに。

そして、「俺は、ウミカをな……」という小さな呟きが、風にまぎれて聞こえた気がした。

私は一瞬ハッとして彼を見る。ウミカという名前にピンとなにかがひらめいたのだ。

でも彼は、無表情で空を仰いでいる。

今日の空も秋らしく、もこもことした羊雲が流れていた。