「なんだか変わったな、昔のお前とは。中学の時の事故のせいか?」
「なんのことだよ? じゃあな」
彼は新太にまた適当な返事をすると、今度こそ図書室を出ていった。
声は震えているくせに、なんでもなさそうな言葉で心を隠しながら。
私は背もたれの上に首を倒すと、逆転した世界が見えた。
鬱蒼とした木々は空から逆さまに生えて、真っ赤に燃える大きな空は地の上に堂々と横たわっていた。
そんな世界おかしいはずなのに、今はなにもおかしいと思えない。
私たちのことがバレたのも、アイツがアキムだったということも……。
こうなったら、すべてのことが逆転したって、おかしくなくなってくるよ。
それに、新太は事故がどうとか言い出した。創始者のことだって気になる。
私の頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。
「ねえ、どうするの……? 犯人わかんないままだよ……」
結愛の呟きで絶望が広がる。
ふとテーブルを見れば、アイツが握って曲がってしまった文庫本が置いてあった。
歪んだ表紙には、人間失格の文字がはっきりと刻まれていた。