私たちしかいない空間に、静寂が訪れる。
私は、次の一言を身構えて待っていた。
なのに、まず返ってきたのは大きすぎるため息ひとつ。
彼は片手でカバンを背負ったまま、冷めた目で私を見ていた。
新太も結愛もただ、彼を見つめている。
それでも彼は太々しく戸の前に立っている。
すると彼はカバンとともに腕をだらんと下げ、同時に唇を動かした。
「呼び出しておいて聞きたいことはそれだけか?」
軽く鼻で笑う声が聞こえる。
本郷大翔は笑っていた。優しい琥珀色に輝いていた瞳は細められて、笑い声を発しない唇はつりあがっている。
私はテーブルについた指先にギュっと力を込めた。
その不気味な笑顔が、怖かったんだ。
背中がぞくりとする。
彼がなにを言いたいのか、なにも見当がつかない。
私が口を開くことなんてできなかった。
彼の意味深な笑顔に空気が凍っている。


