胸は苦しさで満杯で、きつく食いしばった歯は声を堰き止めることだけで精いっぱいだった。
それでも私は、何食わぬ顔で突っ立っている彼を見た。
まっすぐに通った高い鼻も、はねた髪の毛の先も、戸にかけられた繊細で長い指も、温かいオレンジ色に包まれている。
切れ長のクールな瞳さえも、夕日の光で優しい琥珀色に煌めいている。
そんな彼は、まるで夕日に愛されているみたいだ……。
だからこそ憎らしい。
私は彼を強く睨みつける。
あんなことをしたヤツに、愛される資格なんかない。
そんな不条理がこの世の常だとしても、やっぱり私は許せない。
私を抱きしめながらウミカと呼んだその薄い唇。
転びそうになった私を受け止めた意外にたくましい腕。
私は他人と関わらずに生きてきたのに、コイツのせいで乱された。
コイツが私につっかかてさえこなければ、今もこんなに苦しくなっていなかったはずなのに。
自分までも、情けないよ……。


