でも彼女は、正しくしか生きられないんだろう。

自分をキズつけてまでも、悪に傾こうとはしないんだろうね。

「あっ、桃香、ごちそうさま! すごく美味しかった。今度、絶対なにかお礼するからね」

突然、今の雰囲気には似合わない明るい声でそう言う。

隣を見れば髪をばさりと下げ、深くお辞儀をしながら、弁当箱が差しだされていた。

私はそっと受け取り、膝に乗せるとそれをぼけっと見つめる。

透明のフタから見える中は、空のアルミカップがあるだけだった。

「ところで話は戻るけど、桃香には好きな人いるの? 私自身はわからないからさぁ」

強引な軌道修正だ。

「委員長は優しいよね。いつもみんなに声かけて、穏やかで」

結愛は子供みたいに足をぶらんぶらんと前後に揺らしながら、そんなことを言い出す。

けれど私は上の空で雨が降りしきる外を見た。

頭の中に一瞬だけアイツの姿がよぎる。

放課後の教室で、憂うように雨を眺めていた本郷大翔を……。