イタズラっぽく笑って見せる私。
「も~! 桃香は毒舌だからわかんないよ~。かなりショック受けたのに~」
彼女は口を尖らせて抗議しながらも、嬉しげに目を細めていた。
「確かにね、男子には度々コクられてる。でも、一度も付き合ったことないし、人を好きになったこともないんだよ」
なぜか、そんなことを得意げに話す彼女。
そんな彼女の鈴のような声を、雨音がしっとりと包んでいく。
「男の人は基本的に苦手なんだ。あのことがあってから、人を好きになるのが怖い」
そう言って、雨にぬれる外を見ていた。
繊細な睫毛が伸びる先を追えば、そこには彼女の愛する空はなかった。
そこにあるのは、彼女の憧れを隠す分厚い雲だけ。
厚く重々しい色をした雲は、まるで岩壁のように空を閉ざしていた。
彼女の瞳の輝きまでも、奪われていく。
「それにね、本当の私を知っても、愛してくれる人なんていないと思うの」
そして、深く深く沈みそうな声で、雨とともに言葉が落ちた。


