彼女はお行儀よく膝に置いた手で、もじもじとスカートを掴む。
それを見て頬笑みながら、私は弁当箱を片づけだした。
「結愛。そろそろ5時間目が始まる。先に戻りなよ」
名前を呼ばれた瞬間、結愛は目を爛々と光らせ、誇らしげに背筋を伸ばした。
けれど、結愛はなにかを言おうと口を開きかける。
「秋穂に見られたら、なにかカンぐられるでしょ。私は後から行く。だから先に行きな」
私はそれを言わせないうちに釘を刺した。
切なげに眉根を寄せた結愛だけど、半分納得したのか、渋々頷く。
「わかった。またあとでね、桃香」
結愛はランチバッグを持ってベンチから立つと、校舎の入口へ小走りで向っていった。
その距離は短いのに、何回も振り返ってはベンチに座ったままの私に、笑顔で手を振るの。
もう、それだけで十分だよ。一緒に教室へ帰れなくても、結愛の気持ちは伝わる。
結愛の笑顔は、化粧した秋穂なんかよりずっと綺麗で、今日の空にも負けないくらい輝いていた。


