あれもこれも、全部は彼女のウソに満ちたこの表情のせい。
美しい栗色の髪も、作られた人形の髪みたいでウソくさいんだ。
彼女によって、世界がウソに塗りかわる。
きっと、彼女にとってはウソじゃなくて、秋穂によって捻じ曲げられた真実なんだろうけどね。
唯一、私の目に映るもので真実味があるのは、膝の横でベンチの縁をぎゅっと握る彼女の白い手とピンクのリストバンドだけだった。
「私ね、空になりたかったんだよ」
彼女は、唐突に言った。
それは印象的な小説の冒頭みたいで、私の胸にズシリと重みを与える。
ハッとして彼女を見れば、空にまっすぐな眼差しを向けていた。
私の目には今、空はウソくさく映ったままだけど、彼女の黒い瞳には澄みきった空だけが映し出されている。
瞳が輝いているのは、空の光のせいか、彼女の涙のせいか、私にはわかるはずもない。
ただ彼女は、古びた低いベンチから、高すぎる空を見つめているだけ。
恋焦がれるような熱い眼差しを注ぎながら。


