耳をつんざくような衝突音がとどろく。
戸を開け放った右手は宙を舞ったまま、私は微動だにせず彼から目を離すことをやめなかった。
もちろん彼は、その凄まじい音にはじかれて、上半身を私の方に向ける。
今も我関せずというような無頓着な顔をしているけど、メガネの奥の目だけは見張っていた。
こんな状況でもイスに座ったままで呑気なもんだ。
「ねえ、アキムなの?」
私は敷居をまたがずその場に立ったまま静かに問いかけた。
でも、彼は見張っていた目までも普通に戻し、指を挟んでいた文庫本を開き始める。
私は早歩きをして彼の元へ行くと、手から文庫本を引きぬいて机の上に投げた。
長い机の上をエアホッケーのディスクみたいに文庫本が滑っていく。
「あんたがアキムなのかって聞いてんの!」
怒りにまかせて、私は語気を強めた。
なのに彼は動じず、なにも答えないどころか、投げ飛ばされた文庫本の行き先をぼーっと見つめるばかり。


