心臓がドクドクと音をたて、気持ち悪くなるくらい耳の内側でその音が響く。
頑張って踏ん張っていなければ、もうふらついてしまいそう。
見ていれば彼は、親指をしおりにして左手だけで文庫本を持つと、右手でポケットからスマホを出した。
白っぽく映し出されていた画面はタップされるとやがて、黒い画面に。
あれは“月がいなくなった夜”……?
私はよく見ようとして目を凝らす。
けれどその時、視界の端に映り込んだんだ。
彼が微かに口角の端を釣り上げたのが。
そう、あの招待状がきたときの夜の月と同じように。
わなわなと震える拳にはどんどん力がこもり、私は彼のことを鋭く睨みつけていた。
もしかして秀才くんがアキムだったの?
秀才ぶっていつもすましながら、あんなことをして楽しんでいたの……?
力のこもりきった右手を勢い良く伸ばす。
今日こそアキムをたたきのめしてやる。
私は目の前の戸を威勢よく開け放った。


