亜美はいじらしく言うと、自分の左手首に巻き付けたピンク色の皮ベルトの腕時計をちらっと見た。
「いっけね!
休憩終了まであと5分じゃん。
歯も磨いてねえや!
お姉さん、赤ちゃん生まれたら、メールちょうだいねえ。お見舞いに行くし!」
またいつもの亜美に戻って、けたたましく言うと、ぴょん、と跳ねるように踵を返し、
「じゃあねえ!」と無邪気な笑顔で美紗たちに手を振って、小走りに去っていった。
(ちょっと話しただけでも、疲れる…)
美紗は苦笑した。
「誰?」
問う誠に
亜美の後ろ姿を見ながら美紗は、
「あの子、ヒカルの前カノ。
うちにパンティ忘れていった子よ」
と教えてやった。
ようやく美紗を呼ぶ声がした。
「三ツ木美紗さん。1番診察室へどうぞ」
「はあい」
美紗は返事をして立ち上がった。
「じゃあ、行ってくるね。これ、返しておいてね」
振り向いて、育児雑誌を誠に手渡す。
「美紗…頑張れよ!」
誠が真剣な顔して、拳の親指を突き出すポーズをして、力強い口調で言った。
美紗は吹き出しそうになる。
ーーそれじゃ、まるでこれから生むみたい………
「うん。頑張るね!」
誠に微笑みかけてから、診察室へと歩き出した。
【完】

