『ヒカルもオーストラリアに行ってていないんだから、うちに誠さんが来たらいいじゃない』
美紗の母はそう提案したけれど、ヒカルの日本での居場所がなくなってしまうのは、可哀想だ。
『ヒカルがいつでも気兼ねなく、帰れる環境を残してやりたい』という美紗の意見に誠も賛成してくれた。
お腹が目立たぬうちに、すぐさま早くと焦る母を説き伏せて、結婚式は、ヒカルが来年春にオーストラリアから帰国してから挙げることにした。
唯一の姉弟だ。
ウエディングドレス姿を見せたかった。
ポコポコポコ…
フロアに響くシューズの音と共に
「ああっ!久しぶり〜!」
まるで悲鳴を上げるように、ファイルを胸に抱えた白衣の若い女が美紗に近づいてきた。
なぜか美紗の身体は、ビクッとなる。
女の白衣の丸襟は淡いピンク色で、同色のピンクのズボンを履いていた。
看護師とは少し違うようだった。
ーーこの病院にこんな知り合いいたっけ…?
美紗は首を傾げた。
「どうも」
美紗の顔馴染みの看護師だと思った誠は女に微笑んで会釈した。
訝しげな美紗に女は言った。
「嫌だあ、お姉さん!亜美だってば!
忘れちゃったの?」
胸に当てるようにして持っていた青いファイルをずらし、白衣の左胸の短期大学の学校名と『関根亜美』と記された名札を見せ付ける仕草をする。

