受付窓口のクラークは、また、美紗の名前を呼ばなかった。
「ほら。喉乾いただろ?」
待合室の長椅子に座る美紗に、誠はストローを差した飲みかけのパックのジュースを差し出した。
「あ。ありがとう、フルーツ牛乳?」
「そう。まだ、順番来ないの?」
美紗の前に立つ誠は、うんざりした顏を見せる。
いろいろな診療科目のある総合病院だから、待合室は広い。
大きな液晶テレビが据え付けられ、昼前のワイドショーを映し出していた。
産婦人科の前には、背もたれのある長椅子が四列ほど並べられていたが、患者らしき女性は美紗を含め、3,4人ほどしかいなかった。
美紗の後ろの席で、妊婦が小さな子供に絵本の読み聞かせをしてやっている。
混んでいるわけではないのに、診察は遅々として進まないようで、予約時間はとっくに過ぎていた。
「うん。もう次なんじゃないかと思うんだけどね。いつもこんなよ」
のんびりと言う美紗の膝には、育児雑誌が広げられていた。
赤ん坊の愛くるしい笑顔が表紙のそんな雑誌の類いは、数ヶ月前まで、全く無縁だったのに。
「予約時間、30分以上過ぎてちゃ、予約の意味ないよなー」
誠は腰に手を当て、苛立ったように受付のほうを見る。

