「えっ…僕ですか…?」
眼鏡を掛けた真面目そうな彼は歳上の女の酔っ払いを押し付けられて、とても困惑していた。
タクシーの後部座席で、美紗は横になって熟睡し、彼とは一言の会話も交さなかった。
日曜日。
やっとひどい二日酔いから開放された美紗は、誠に新年会の話をした。
本当は忘れたかったけれど、会社で噂になる前に、美紗自身が話しておいたほうが良いと思った。
「本当、馬鹿なことしちゃった…
もう一生、日本酒飲むのやめる。
明日、会社行きたくない…恥ずかしいよ…」
誠の部屋でクッションを膝に抱えて、いつまでも落ち込む美紗を、最初は呆れ顔だった誠も慰めてくれた。
「まあ、ストリップして裸になったわけじゃないんだから、大丈夫だよ。
酒の席だし、皆、そんなに覚えてないって。
それより、誰かに変なとこに連れ込まれなくて良かったよ」
誠の言葉は極端だったが、美紗は救われた。
「あの新入社員の子にも、お詫びしなくちゃ…名前も知らないけど…」
年々、酒癖が悪くなっている気がする。
29歳にもなって、おじさんの膝に乗って大騒ぎなんて、亜美も顔負けだ。
あの子は若いし、仕事と割り切ってやっている分、亜美の方がましかもしれない…と美紗は思った。

