ピアノ発表会は、公共の施設を借りて、開催された。


ホール出入り口に設置された受け付けで来場者名簿に、
「三ツ木誠、黒木美紗」と美紗が二人分、署名した。
面倒なので住所は誠も美紗と同じにした。


プログラムを受け取る。

二つ折にされた黄色の紙の表には、いくつかのピアノ教室名が記され、「第五回合同発表会」とあった。


会場の小ホールは半分程が、既に埋まっていた。

皆、我が子の晴れ姿を楽しみにしている。

ビデオカメラを手に持ち、良いアングルを摸索する父親。

そわそわと落ち着かず、立ったり座ったりを繰り返すお洒落をしてきた母親。

既に飽きてしまい、会場を走り回る幼児。

講師に手渡すのか、花束を抱える者も何人かいた。


誠と美紗は、最後部の隅の席に並んで座った。

誠は、まぶし気な目で前方のステージを見ていた。


このざわついた会場内に、きららの母親、つまり誠の前妻もいるはずだ。
きららの新しい父親も。


散歩 山内きらら


プログラムの上から五番目に、その名はあった。

実父とは違うその苗字は、既にきららがもう、誠の手には届かない存在であることを示すかのようだ。