「仕事って?」


意味が分からず、美紗は訊いた。

亜美は赤いエナメルのバッグを肩に掛け直しながら、あっけらかんと答えた。


「亜美、少し前からキャバクラで働き始めたの。
学費が嵩むから、ママが自分のお小遣いくらい、自分で稼げっていうの。
鬼ばばだから。あの人!」


「じゃあね~」と亜美は陽気にいい、美紗に手を振って、化粧室から出て行った。


亜美がいい子なのか、救い様のない馬鹿な子なのか、美紗にはわからなかった。





会社では、誠との交際は、伏せていた。

派遣社員という立場上、恋愛沙汰はあまり好ましいことではなかった。

なにかトラブルがあれば、契約を切られる事態になり兼ねないし、派遣会社の評価にもつながってしまう。


所属する課が違い、いる棟も違うから、誠と会社では、あまり会うことがなかった。

たまに廊下で会った時は、少し立ち話をしたりした。
これくらいなら、誰も何も言わない。


この時は、廊下の曲がり角で出会い頭にぶつかりそうになってしまった。


「おっと危ない!」


また、誠は、下を向いて考え事をしながら歩いていて、美紗の方が除けた。


美紗は持っていたファイルを取り落としそうになった。