美紗は、ヒカルの長いまつ毛に縁取られた瞳に惹きつけられてしまう。
吸い込まれそうに大きな黒い瞳。
唇はぽってりと厚いが、スッと通った鼻筋がヒカルを好ましく見せる。
我が弟ながら、いい男だ…と美紗は思う。
言葉を選びながら、十日程前、亜美がここを訪ねてきたことを美紗が知らせると、ヒカルは急に不機嫌になり、黙り込んでしまった。
美紗は、亜美が妊娠したかもしれないと悩んでいることを言い出せなくなってしまった。
ヒカルは、空になった缶を右手でくしゃりと握りつぶす。
「あいつ、合コンで知り合った男と寝たっていうんだよね。
俺が放置するから、淋しかったとか言って。そんな告白されてもねえ」
「えっ!」
美紗の感じた亜美の危なっかしさは、そういうことだったのか…これでは話がますますややこしいことになる。
「そりゃ、別れるでしょ、普通」
ヒカルはそう言って美紗に縋るような、許しを乞うような眼差しを向けた。
(やだ、可愛い…)
弟をそんな風に思う自分に、美紗は少し呆れた。
「俺のことはいいよ。
それより、あの彼氏、いい感じじゃん。あんな酔っ払いの女、俺だったら面倒臭えから、置いて帰るよ。
美紗、結婚するならラストチャンスじゃね?」
ラストチャンス、という言葉に、
美紗はずっこけた。