ちゃんとヒカルに聴こえるように、美紗は大きめの声で言う。
「バイトばっかりして、留年とかしないでよ〜。
私の監督不行き届きになっちゃうんだからあ」
「しねーよ。てか、なんで留年したら美紗のせいになるんだよ。
学校行ってるの俺なのに」
缶のバドワイザーを両手に持ち、一つを美紗の前のテーブルに置く。
この家にアルコールを買い置きする習慣はないから、ヒカルが買ってきたものだろう。
(えっ…)
美紗は驚いた。
「お疲れ!」
ヒカルは立ったまま、プシュッとプルタブを開けて、乾杯の仕草をした。
「ありがとう。ヒカルもビール飲める年なんだもんね」
美紗もヒカルに習って、ビールを宙に差し出す。
子供だと思っていたヒカルとビールを飲むなんて。
しかも姉の分まで買ってきてくれた。
ヒカルが素直で単純だったのは小学生までで、中学に上がるとすぐに「お姉ちゃん」が、「美紗」と呼び捨てになった。
自室で音楽を大音量で聴くようになり、家族を辟易させた。
両親が博多に行ってしまってからは美紗を「お前」と呼ぶこともあった。
自由気ままというよりは、生意気で自分勝手な感じになっていたから、美紗には信じられなかった。

