「え、なんで…」
美紗は呆然とした。
中から、チェーンロックされていた。
「何やってんの、あいつ…
私のこと締め出す気?」
苛立ちながら、つぶやき、携帯をバッグから取り出す。
左肩に掛けたエコバッグがずり落ちそうになりなるのを押さえながら、ヒカルに電話を掛ける。
ヒカルはすぐに出た。
「もしもし?私!」
もう夜遅い。
マンション通路での人の声は意外に響くものだ。
美紗は怒鳴りつけたい気持ちを必死に抑える。
それなのにヒカルは電話口で
「あー。何?」と普通に言った。
「何じゃないよ。あんたね、
チェーンロックなんかして、
私を家に入れない気?」
人のことをあんた、と呼ぶのはヒカルだけだ。
しばらく沈黙があった。
「えっ…美紗、帰ってくるの?」
とぼけたヒカルの質問に美紗の苛立ちはますます募り、声が大きくなる。
「当たり前でしょ!ここは私のうちでもあるんだから。
早く開けなさいよ。荷物重くて死にそうよ!」
「…わかった。今開ける」
なぜかヒカルは、観念したように言った。
ヒカルは赤いTシャツに下は黒いジャージ姿で、膨れっ面の美紗を出迎えた。

