ハロー、バイバイ!



ーーきららは動物が好きだから、
横浜ズーラシアに連れて行くんだ。


誠はそう言っていた。


誠の娘の名前は
『きらら』という。

多分、きららの母親、つまり誠の前妻が付けたのだろう。


別れて暮らす今でも、誠は愛情を込めて『きらら』と発音する。

誠は子供の話は滅多にしない。


月々いくらかの養育費をきららが成人するまで支払い続けることは、親として当然の義務だと、美紗も承知しているけれど、それ以外はまったく他人事で関心もなかった。


美紗が前妻との子供のことを完全に割り切れるのは、誠が『きらら』と発音する時よりも『美紗』と呼ぶ時の声の方が、ずっといろいろなものが含まれていると分かっているからだ。





自宅マンションの玄関前で、鍵をショルダーバッグから取り出そうとして、美紗はもたついた。


スーパーで買い出しした食品に加え、海ほたるで買った会社の人達に配る土産の菓子も二箱買ったから、荷物が多かった。


やっと鍵を取り出し、扉のドアノブに鍵を差し込んだ美紗は、勢いよくドアを開けようとした。


ガン!!


鋭い音を立てて、開くはずの鉄の扉がまた閉まってしまった。