振り向いてはいけない‥携帯を持つ手が汗ばんできた。

"走らなきゃ"

足を前に踏み込んだと同時に腕を捕まれた。

「無視しないでよー」

捕まれて後ろを振り返ると、男の人達が数人‥凄く怖い‥。

『奈々‥?誰だ?』

「あ‥‥」

何か言わなきゃ。
なのに、恐怖で言葉が出ない。

「一人で歩いてたら危ないよー?俺達が送ってあげるよ」

ニヤニヤと近づいてくる男の人達。


「お兄ちゃん‥!!」


"助けて"

次に続くはずだった言葉は発されることはなかった。

‥なぜなら、声を出せないように手で口を塞がれてしまったから。


"お兄ちゃん‥!!!!"


斯界が涙で見えない。
これから起きるであろう出来事が、自分の想像した通りだとすれば‥

"最悪"過ぎる。

お兄ちゃんの言うことを聞いていれば、なんて今更過ぎてどうすればいいのか分からない。

押さえつけられて動かない体。
叫ぶ事さえできない、この口も。
せめてできる事は目をつむることだけ――‥


"助けて‥!!"


悪夢だ、これは――‥


―――――‥‥‥―‥