「ワルツでも踊りましょうか?」

雰囲気を読み取ってか、彼が手を差し出してくる。
彼が居るのは、砂浜から一段上がったコンクリートの舞台だ。


一曲くらい、いいかしら。
そう思って手を取る。

余計なメロディーは奏でない。

波の音と、月明かりと、微かに見える人工の光。



大観衆が居るわけじゃない。
一世一代の大舞台でもない。
カメラが回っている訳でも、ましてや、利益があるわけでもない。


それなのに、今までの発表会の何よりも



緊張しているような気がした。



汗ばむ手を誤魔化すように揉んでいく。