「あ、血が……」
子猫ちゃんが俺の頬にそっと触れた。
肩がビクンと揺れる。
「ゴメン、なさい……」
急に真顔になった俺を見て怒られるとでも思ったのか、子猫ちゃんは咄嗟に手を引っ込めて少し強張った顔をしていた。
「ねぇ、知ってる?」
「何を、ですか?」
「猫ってさぁ、傷を舐めて治すんだって」
「えっ?」
目を見開いて俺を見る子猫ちゃんは完璧に固まっていた。
俺は子猫ちゃんの口元に頬を近付ける。
「いや、あの……」
「…………なーんてね、冗談」
俺は顔を上げて、そう言うとクスリと笑った。
「俺、着替えたら仕事行かなきゃいけないから、戸締り宜しくね!それと食費も置いとくね!」
俺は固まったままの子猫ちゃんの頭を撫でて、テーブルの上に合鍵と1万円を置いた。


