「桃谷 悠です」
彼の名前を初めて知った。
「素敵な名前ですね」
「そう?普通の名前だよ」
確かに彼が言うように普通の名前だ。
名字は珍しいかもしれないけど。
でも自己紹介をされて、黙っておくことが出来ず、思わずそんな言葉が口から出てしまった。
「キミは?」
「根古谷アリス、です……」
私の名前を聞いた時、少しだけ驚いた顔をした。
「名前負けしてますよね?」
「いや、そんなことないよ」
彼はそう言ってクスリと笑った。
「不思議の国のアリスって知ってる?」
「はい」
お母さんが不思議の国のアリスが好きで、女の子が生まれたらアリスって名前を付けたいと思っていたらしい。
で、生まれたのが私。
お母さんは迷わずアリスと名付けた。
「それに猫が出て来るんだよ。なんて言ったっけ?」
「チェシャ猫ですか?」
「そうそう!それそれ!なんか名字が根古谷で名前がアリスって狙ったのかな?と思って」
「母親がアリス好きで、それで付けたと聞いたので狙って付けたわけでないと思いますよ?」
「そっか、そうだよねぇ」
「それに、この名字になったのは1年前からなので……」
「えっ?」
「あ、うち、母親が1年前に再婚したんです。その相手の名字が根古谷で……」
そう聞いた彼は目を見開いて私を見た。
目が合い、思わず目を逸らす。
「なるほどね、そういうことか」
彼はそう独り言のように呟いた。


