玄関の鍵を開ける音が聞こえた。
私は求人雑誌にボールペンを挟み、それをソファのクッションの下に隠した。
「ただいま」
桃谷さんがリビングに入って来た。
「おかえりなさい」
こう言えるのも明日が最後。
「ご飯、食べますよね?」
「うん」
「用意しますね」
「着替えてくる」
桃谷さんはリビングを出て行った。
私はキッチンに行き、晩ご飯の用意をした。
晩ご飯を作るのも用意するのも明日で最後だ。
そう思うと、寂しさと胸の苦しさが押し寄せてきて、涙が出そうになる。
自分で決めたことなのに。
私は涙が出るのを必死で堪えていた。


