「桃谷さんのお父さん、金が欲しくて来たわけじゃないって笑って言ってました」
「えっ?」
あ…………。
あの時、仕事から帰って来たらテーブルの上にシワシワの金があって……。
「ただ、悠に会いたかっただけ。と、そうも言ってました。もしかしたら自分がもう長くないとわかっていて、それで後悔しないために……」
だから俺に会いに来たって言うのか?
「桃谷さん、お父さんに会いに行ってあげて下さい。このまま行かなかったら後悔するかもしれませんよ?だから後悔しないためにも会いに行ってあげて下さい」
「アリス……」
アリスの目は潤んでいて、瞬きをすると涙がポロポロと零れ落ちていった。
「喪服、クリーニングに出してたかな?」
「桃谷さん……」
アリスの顔が少しだけ明るくなった。
「随分と長いこと着てないから……。クリーニングに出したかなんて忘れちゃったよ。寝室のクローゼットを見て来るね」
俺はそう言ってアリスの頭を撫でた。
「はい」
返事をしたアリスは微笑む。
俺はリビングを出て寝室に入った。


