キッチンの換気扇の下でタバコを吸う桃谷さん。
細く綺麗な指に挟まれたタバコ。
換気扇に吸い込まれていく煙をボーと見ている桃谷さんは何か考え事をしているようだった。
「あ、あの、桃谷さん?」
「ん?」
私はダイニングから桃谷さんに声をかけた。
「朝ごはんはどうします?簡単なものなら作れますけど?」
「いつも食べないからいいよ」
「そうなんですね。あっ!今日、友達の家に遊びに行きたいんですけど、いいですか?」
昨日、寝る前に杏から遊びに来ない?とLINEが入った。
桃谷さんに聞いてからと思って、返事はしてなかった。
「いいんじゃない?遊びに行っておいでよ」
「ありがとうございます」
「てか、俺に聞かなくても自由にしたらいいんだよ?」
それもそうだ。
私と桃谷さんは、同棲カップルでも夫婦でもなく、ただの同居人だ。
聞く必要はない。
「そ、そうですね」
「ゆっくりしておいで」
「晩ごはんを作る時間までには帰りますから」
「それも気にしなくていいよ」
「でも……」
料理と掃除洗濯をする条件で置いてもらってるんだし。
「いいから。晩ごはんのことは気にしないで?」
桃谷さんはそう言って笑顔を見せた。
タバコを灰皿に押し付け、ダイニングにいる私の頭を撫でる。
「仕事に行く用意をするね」
そう言ってリビングを出て行った。


